大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1388号 判決
A 消火栓ブロツクについて
1 請求原因1、2の事実(原告草竹が本件類似意匠の附帯する本件登録意匠(一)の意匠権者であり、原告会社がその専用実施権者であること)については当事者間に争いがない。
2 そして、被告がイ号物品を業として製造販売したことについても当事者間に争いがない。
3 しかるところ、原告らはイ号物品は本件登録意匠(一)に類似する旨主張するので、以下この点につき検討する。
まず、イ号物品が右意匠にかかる物品「道路用消火栓ブロツク」と用途および機能を同じくするものであることはイ号物品それ自体ならびに弁論の全趣旨により明らかである(被告はイ号物品は「道路用消火栓室」の最下段に位置する部品であるというが、それが右意匠にかかる物品と用途、機能を同じくするものであることは右のとおりであり、しかも被告の主張(事実欄第三の〔二〕参照)によつてもイ号物品そのものが単品として取引されうるものであることが明らかであるから、それがかりに被告主張の如き部品であるとしてもそのことは何ら右物品の同一性を否定する理由にはならない。)。
そこで、以下その意匠の類否について考える。
一 本件登録意匠(一)の構成
本件登録意匠(一)の構成が原告ら主張のとおりのものであることは当事者間に争いがない。
二 右意匠の類似範囲決定のための参考資料
(一) 類似意匠
右意匠に本件類似意匠が附帯しその構成が原告ら主張のとおりであることも当事者間に争いがない。
(二) 公知意匠(その(一))
成立につき争いのない乙第一一号証によると、本件登録意匠(一)の出願前すでに被告主張の公知意匠(一)(別紙(〔編註〕省略)第(7)の第7ないし第9図記載の意匠)が存したことが認められ、その構成は被告主張のように分説され得る。
(三) 公知意匠(その(二))
いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二と証人小倉正和の証言および弁論の全趣旨によると、公知意匠(二)に関する被告主張の事実(事実欄第四の1一(二)の事実)を肯認することができ、右事実によれば本件登録意匠(一)の出願前すでに被告主張の公知意匠(二)(別紙(1)記載の意匠)の存したことが明らかであり、その構成は被告主張のように分説され得る。
原告草竹本人尋問の結果によると、被告主張の水道産業新聞(乙第一号証の一)所載の消火栓ブロツク(最下段および中段のもの)は右登録意匠(一)の如き枠体として一体形成されたものではなくL字状に二分されたブロツクを組合せたものであるというのであるが、たとえそうだとしても、その二分されたブロツクを組合せて形成される消火栓ブロツクの意匠が右新聞所載の写真のようなものである以上、右意匠は公知であつたというべきでありこれを否定する理由にはならない。
三 そこで、以下、右認定事実に照らし本件登録意匠(一)の要部ないし特徴を考える。
まず、登録意匠の要部ないし特徴を把握しあるいはその類似範囲を画定するにあたつて当該登録意匠出願前にその分野に属する公知意匠が存した場合には、これを参酌して右類似範囲を決定すべきことは被告主張のとおりである。また、登録意匠に類似意匠が附帯している場合類似意匠は本意匠の類似範囲を明確ならしめるための有力な資料であるからこれを参酌すべきこともいうまでない(ただし、対比物品の類否はあくまで本意匠との比較によつて決すべきことはもちろんである。)。ただ、類似意匠を参考にする場合でも当該本意匠または類似意匠が公知意匠との関係で創作性の程度が相対的に低いことが明らかになればそのことも考慮に入れたうえで参考資料とすべきである。すなわち、公知意匠の内容如何によつては類似意匠を参考にして定められる類似の範囲も相応に限定されなければならない。
そこで、右の如き観点から、本件登録意匠(一)の要部ないし特徴をみるに、右意匠の要部ないし特徴を原告ら主張のように「全体をほぼ扁平な枠体状の長方形立方体としてその下部周囲に上部より大きく突出した鍔状部(突出部)を形成し、正背両面の下部中央に半円状の切欠部を設け、上部(天端部)に移動止凸部を突設したこと(本件登録意匠(一)の(1)、(5)、(6)」の構成)」という基本形状にあるということはできない。けだし、本件登録意匠(一)の出願前すでにこれと同一または酷似する基本形状を有する公知意匠が存したことは前示のとおりであり、右登録意匠には右のような基本形状の点では特段創作性や独自の美的価値を認めることはできないからである。結局、前示公知意匠を参酌して考えた場合、本件登録意匠(一)の要部ないし特徴は上記の如き公知の形状の枠体の外周壁および鍔状部外周面に凹陥網目模様を附した点すなわち右形状と模様を組合せた点にのみ存するというほかはない。
すなわち、右登録意匠(一)が効力を及ぼしうる類似範囲は本意匠と同一視し得るほど酷似するものに限ると解すべきである。もつとも、本件の場合、右登録意匠にはこれとやや形状を異にする前記類似意匠が附帯しているからこれを無視することは許されないが、右類似意匠の参考資料としての意味は相応に限定して考えなければならないこと前示のとおりであつて、結局、右類似意匠と同一か少くともこれと同一といえるほど酷似するものについてのみ例外的に右登録意匠(一)との類似性をみとめるに留めるべきである(なお、未確定ではあるが、特許庁において本件登録意匠権(一)は被告主張のとおり前記公知意匠(一)に類似し意匠法三条一項三号に該当するとして無効の審決をしている点も、右意匠の類似範囲を考えるうえで無視し得ない事実である。)。
四 イ号物品の構成
イ号物品の構成が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
五 本件登録意匠(一)とイ号物品の対比
そこで、イ号物品を本件登録意匠(一)と対比してみるに、両者が原告らのいう基本形状において同一であることは一見して明らかでありそのこと自体は被告も争つていないところである。しかし、本件において右登録意匠(一)の右のような基本形状を要部とみこれを共通にするからといつて両者間に類似性を認めることができないことはすでに説示したとおりである。かえつて、本件登録意匠(一)の類似範囲は前記の如く右登録意匠および前記類似意匠の各公報に示された意匠と同一といえるほど酷似したものに限られると解すべきところ、イ号物品の意匠が右登録意匠(一)ないし類似意匠と同一でないことは原告らの自認するところであり(両者の構成上の相違点は原告ら主張のとおりであり、これについては争いがない)、またイ号物品においては外周壁隅角部および鍔状部外周面隅角部のみならず内周壁隅角部も斜めに切り落されているため、少くともその平面視および底面視においては角張つた印象が薄れ全体的に本件登録意匠(一)と異なつてやわらかな印象を与えるものであることすなわちその全体より生ずる美感ないし意匠的効果において異なるものがあることを考慮すると、イ号物品の意匠は本件登録意匠(一)ないしその類似意匠と同一視し得るほど酷似しているとは断じ難い。
したがつて、イ号物品の意匠は本件登録意匠(一)と非類似である。
4 以上のとおりであるから、被告がかつてイ号物品を業として製造販売したことないし今後これを製造販売することは何ら本件登録意匠(一)の意匠権を侵害するものではない。
B 水道用弁室の口枠について
1 請求原因1、2の事実(原告草竹が本件登録意匠(二)の意匠権者であり、原告会社がその専用実施権者であること)については当事者間に争いがない。
2 そして、被告がロ号物品を業として製造販売したことについても当事者間に争いがない。
3 しかるところ、原告らはロ号物品は本件登録意匠(二)に類似する旨主張するので検討する。
まず、成立に争いのない甲第三号証の二(右意匠の公報)および原告草竹本人尋問の結果によれば、右意匠にかかる物品は水道用弁室(消火栓ボツクス)の嵩上げブロツクであると認められるところ(被告は右ブロツクはその名称からみて水道用弁室の開口部の枠体と解せられるというが、右ブロツクの天端部にはその上に積み重ねられる枠体状ブロツクに嵌合する移動止凸部が突設されていることからみて、それが嵩上げブロツクであることは明らかであり右被告の主張は採用できない。)、ロ号物品がこれと同一物品である嵩上げブロツクであることは被告も認めるところである。
そこで、以下意匠の類否について考える。
一 本件登録意匠(二)の構成
本件登録意匠(二)の構成が原告ら主張のとおりのものであることは当事者間に争いがない。
二 右意匠の類似範囲決定のための参考資料
(一) 公知意匠(その(一))
成立につき争いのない乙第一一号証によると、本件登録意匠(二)の出願前すでに被告主張の公知意匠(一)(別紙(7)の第5、第6図記載の意匠)が存することが認められ、その構成は次のように分説され得る。
(1) 平面よりみてやや横長の長方形立方体の内部を中空状にした枠体であつて
(2) その枠体の内外周壁は垂直面で構成され
(3) 枠体の内外周壁隅角部はいずれも直角状であり、
(4) 左右両側の外周壁の横方向中央部に凹状部が凹設されて手掛り部を形成し
(5) 上部(天端部)にはその上に積み重ねられる他の枠体状ブロツクに嵌合する移動止凸部が突設され
(6) 下部(底端部)にはその下に置かれる他の枠体状ブロツクに嵌合する移動止凹部が凹設されている。
(二) 公知意匠(その(二))
被告は本件登録意匠(二)の出願前である昭和四二年からすでに大阪府門真市において別紙(4)記載のとおりの意匠を有する原告会社製造の水道用弁室(消火栓ボツクス)の口枠が実際に使用されており右意匠は公知であつた旨主張するところ、証人小倉正和の証言およびこれにより成立を認むべき乙第二号証(門真市水道事業管理者名義の証明書)には右被告の主張にそう供述および記載が存し、これらの証拠によれば被告主張の右事実を肯認すべきもののように思われる。
しかし、他方、証人大谷彰の証言により成立を認むべき甲第六号証と右証人の証言および原告草竹本人尋問の結果によれば、原告会社が右別紙(4)記載の如き意匠を有する水道用弁室の口枠(消火栓ブロツク)を製造販売するようになつたのは右登録意匠(二)の出願(昭和四六年三月二〇日)以後のことであり右乙第二号証に添附された消火栓ブロツクの図面は昭和四六年になつてから大谷彰が作成したもので同号証にその添附図面に記載の消火栓ブロツクすなわち別紙(4)記載の意匠を有する消火栓ブロツクが昭和四二年頃から門真市で採用されていたかの如く記載されているのは誤りであるというのである。そして、右乙第二号証の証明が昭和四二年当時の記録に基づく正確なものであることについての裏付資料はなく、またいずれも成立につき争いのない甲第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第二二号証の添附資料(以上いずれも原告草竹の出願にかかる消火栓ブロツクないしこれに類する物品の意匠公報)等本件にあらわれた資料(意匠公報)でみる限り、本件登録意匠(二)の出願前にみられる消火栓ブロツクないしこれに類する物品の形状はいずれも内外周壁隅角部が直角状のものばかりであり、本件登録意匠(二)の如く外周壁隅角部が切り落された形状の意匠が最初にあらわれるのは昭和四六年三月二〇日になされた本件登録意匠(二)(甲第三号証の二)および前記本件類似意匠(甲第四号証の二)の出願においてであることが認められる。したがつて、別紙(4)の意匠の消火栓ブロツクは昭和四六年にモデルチエンジしたときのものであるという原告草竹本人の供述や前掲大谷証人の証言をたやすく虚偽のものとして排斥することはできず、結局、前掲乙第二号証や証人小倉正和の証言をそのまま採用することは困難である。
三 そこで、右認定の事実に照らし前記Aの3の三において説示した観点から本件登録意匠(二)の要部ないし特徴をみるに、右意匠の基本的形状すなわち(1)長方形立方体で内部を中空とした枠体状ブロツクであること、(2)外周壁の横方向中央部に凹状部を凹設して手掛り部を形成すること、(3)その上部(天端部)にその上に積み重ねられる他の枠体状ブロツクに嵌合する移動止凸部形成し、その下部(底端部)にはその下に置かれる他の枠体状ブロツクに嵌合する移動止凹部が凹設されていることをもつて右登録意匠(二)の要部ないし特徴とすることは困難である。かえつて、本件登録意匠(二)の要部ないし特徴は右基本形状以外の形状すなわち外周壁全周にわたり凹状部を凹設して手掛り部を形成しその外周壁隅角部を斜めに切り落した点にあると解すべきである(この点については、未確定ではあるが、特許庁において被告主張のとおり本件登録意匠(二)は前記公知意匠(一)とその基本形状を異にするものではなく前記隅角部を切り落した点もこの種物品にあつては右登録意匠(二)にのみみられる特徴ではなく右公知意匠(一)に類似する意匠であるとして意匠法三条一項三号該当を理由に無効の審決をしていることも参照。)。したがつて、右登録意匠(二)もまたその類似の範囲は極めて限定的に考えるのが相当で、右意匠と同一視し得るほど酷似したものに限り類似性を認めるべきである(なお、前掲甲第二二号証に添付された各意匠公報によると、本件水道用弁室の口枠ないしこれに類する物品について長方形立方体の枠体としてその基本的形状を同じくしながらその他の部分の意匠的構成を異にすることによつて多数の意匠権が登録されていることが明らかであり、このような点からみても元来この種登録意匠の類似範囲はあまり広く解すべきものでないことを窺い知ることができる。)。
四 ロ号物品の構成
ロ号物品の構成が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
五 本件登録意匠(二)とロ号物品の対比
そこで、ロ号物品を本件登録意匠(二)と対比してみるに、両者がその基本形状(前記三参照)において同一であることは一見して明らかでありそのこと自体は被告も争つていないところである。しかし、本件において右基本形状をもつて本件登録意匠(二)の要部とみこれを共通にするからといつて両者間に類似性を認めることができないこと、かえつて、本件登録意匠(二)の類似範囲は前記の如く右登録意匠と同一視できるほど酷似したものに限られると解すべきことは前示のとおりである。しかるところ、ロ号物品の意匠が右登録意匠(二)と同一でないことは原告らの自認するところであり(両者の構成上の相違点は原告ら主張のとおりでありこれについては争いがない)、ロ号物品においては外周壁隅角部のみならず内周壁隅角部も斜めに切り落されているため、少くともその平面視および底面視においては角張つた印象が薄れ全体的に本件登録意匠(二)よりもやわらかな印象を与えるものであることすなわちその全体より生ずる美感ないし意匠的効果において異なるものがあることを考慮すると、ロ号物品の意匠は本件登録意匠(二)と同一視し得るほど酷似していると解するのは困難である。
したがつて、ロ号物品の意匠は本件登録意匠(二)と非類似である。
4 以上のとおりであるから、被告がかつてロ号物品を業として製造販売したことないし今後これを製造販売することは何ら本件登録意匠(二)の意匠権を侵害するものではない。
C はたしてそうだとすると、原告らの本訴請求はその余の点の判断に及ぶまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとする。